PBR case3 dayz
春が、別れと出会いを連れてくる
別れよりも出会いの方が大きい、そんな人も少なくないだろう
特に学生という時間の中では。
そもそも別れ、なんて大げさなものはこのタイミングではそれ程多くなかったりもするのだ
教室は、知り合いと他人が混ざり合い、
好きと嫌いが混ざり合う空間で
ただこの時期はその内どれともいえない関係が溢れる、見ようによっては非常に混沌とした場になるのだが
そんな中で知り合い同士がコミニュティを作り、
繋り、又は壁を隔て、
やがて教室の中の線は濃くなっていく。
ここはまだその道程。
乃井優作もこのクラスに組み込まれた1人。
いつもの時間に起き、いつもの時間に教室に入り、
朝一番から机と同化している男が目に入る。
「おはよーございます」
「…おはやー…」
「寝不足っすか?」
「んぃや」とよくわからない声を出し、机に埋まっていた顔がこちらを向く
「ねぇユウ君さあ、起きちゃった後に同じ夢見る方法知らない?」
「そりゃまあ、すぐ寝ることじゃん?」
えぇ~と言いながらまた顔が机に吸い込まれていく
「んじゃ夢占いは?」
「はぁ…どんな夢ですかい」
「電車に乗ってて、目の前に女の人がいんの。」
「占うも何もよく見る光景じゃん…」
「いやいや、それが違うんだよー夢の中ならではっていうかさ、電車なんか中真っ青でさ、女の人もなんか見たことあるよーな、ないよーな」
「…美人?」
よほど好みだったのか
へへへと満面の笑みで笑っている。
羽山アキトは一言でいえば『イイヤツ』だ
嫌味のない、ともいうだろうか
そんなに深い知り合いというわけではなかったが、この春から席が縦同士、という関係になった。
たまーに何を考えてるのかわからない時もあるが、基本的にわかりやすく素直なやつである。
ちなみに顔は結構整っている部類。動物に例えるならば言葉の通じる猫という印象だろうか。
「無意識で最高に好みの女の子をイメージしただけでしょ。願望願望。
よってあなたは欲求不満でしょう。古本屋のアダルトコーナーが吉。」
「マジ…?入ったことねーよ」
「電車の夢は、将来の暗示。受けた印象により内容が変わる、ってよ?」
ん?と男2人で声のした方を見やり。
いつも通り、そこにいるのはショートが似合う女の子。
「へぇ。相崎さんて夢占いとかできるんだ」
「そーゆー訳じゃないけど、前に私もちょっと前に電車の夢見てね、調べたから覚えてたの。」
1へえ頂き!とちょっと古いノリをかましつつも笑顔が似合う女の子。相崎奏。
「超偶然じゃん。なに?二人一緒に寝たの?」
「かなっちさん、前髪に雪だるまついてるよ」
こんな風にアキトくんは本当に話を聞いてないような時があります。
「あ、気付いてくれた?かわいーでしょ~」
「ユウくん、どうなの?」
「ノーコメ。」
えー!なんでー!
といいタイミングでチャイムがなり、各々が笑いあって席につく。
声が消えていくのと反比例して
椅子とバッグと参考書が合唱を始める。
「まあほら、実際相崎さんも似たようなの見たってことは、前にあったテロとかの影響じゃん?
テレビしばらくあればっかだったろ?」
「あー…たしかに」
正直、急がなくてもまた会える。そんな気はしている。
また、会いましょう
入っては流れていく雑多な記憶の中で、その一言だけはいつまでもアキトの頭の中に溶け残っていた
ドアが開いた